2009/01/14

橋で結ばれた──安芸灘とびしま海道

2008.12.26
【広島県】


 大崎上島(明石)から大崎下島(小長)へ向かうフェリーです。
 こんな光景はとても好きなので、旅行者が島へ渡るには船の方が風情があっていい、と思ってしまいます。
 フェリーの最前列に駐車したので、下船時には潮だらけになっていました。

 「安芸灘(あきなだ)とびしま海道」とは、呉市から橋で結ばれた「下蒲刈島((しもかまがりじま))」「上蒲刈島(かみかまがりじま)」「豊島(とよしま)」「大崎下島(おおさきしもじま)」「岡村島」へと続く道のことですが、これ最近つけられたネーミングではないかと思われます。
 2008年11月に開通した豊島大橋の完成イベントの一環として、愛称を募集したそうです(できたてです)。
 その記述には「全線開通」などの表記もあり、その先の大崎上島への架橋計画は夢と散ってしまったの? とも受け取れてしまいます……


 大崎下島(Map)


 ここ御手洗(みたらい)地区にある家々の軒先には、生花が飾られています。「軒下に一輪挿し活動」という女性たちの有志活動なんだそうです。
 ここは二度目なのですが、来客をもてなそうとする姿勢が変わらないところが素晴らしいと思います。
 驚いたのは、町中ですれ違った女性に「いらっしゃいませ」とあいさつされたことです(この方は、お知らせを各家に配布していたようなので観光関係の仕事なのかも知れません)。
 女性の方々は全員、郵便配達の若い兄ちゃんも「こんにちは」のあいさつをしてくれるというのは、この町の印象アップにつながるわけですから、とても素敵な習慣に思われます。
 まあどこでもそうですが、オッサンはなかなかあいさつしてくれませんね。
 ──沖縄のオッサンが最も気軽に声を掛けてくれるように思えます。でもその違いって、とてつもなく大きな違いであるように思えます。


 大崎下島や御手洗の名は、ほとんど知名度がないのではと思われます(瀬戸内では、鞆の浦と同様にとても引かれる港町です)。
 瀬戸内海の航路は最初「地乗り」と言われる、陸づたいを行き来していましたが、江戸時代には「沖乗り」という最短距離の航路を整備するための「風待ち港」としてこの港が開かれ、主に北海道や日本海の産物(ニシン等)を大阪・京都へ運ぶ、北前船(きたまえぶね)が多く利用したそうです。
 しかし、幕末以降の動力船(蒸気船等)の登場と共に役目は終わってしまったので、にぎやかな時代は短かったようです。
 ですが、昭和初期の建物で現在復元された劇場の「乙女座」や、 洋風建築の病院(未掲載)などが残されており、とても開かれた気風を持ち合わせた港町のように思え、「次には、何がやってくるのかしら?」などと、「時代の風を待つ港」というような風情すら感じられました。


 そして2008年11月に豊島大橋(とよしまおおはし)が開通して本州と陸続きとなり、自動車の観光客が押し寄せてくるようになります。
 ネット情報によると、トイレと食事処の少なさに大ひんしゅくをかった、とありました。
 そんな開通イベントだけのために準備できるわけがないのは当たり前ですから、観光客とは勝手なものです。閑散としているこの日に食事処が営業していても、成り立たないと思われますもの……

 急峻な斜面にミカン畑が続く島ですから、農道を含めた道路は整備されていますが、島の人々の移動スタイルは軽トラックですから、道幅はすれ違うのにやっとの幅しかありません(それくらいは我慢しましょう)。
 前回訪問時に困った駐車場が無いことにも、少しずつ対応準備が進んでいるようです。
 そんなペースでも島の人たちは楽観的に「何がやってくるのかしら?」と、期待を抱いているのではないだろうかと思い、ハッとしました。
 そういう「純真さ」というものを、わたしはどの辺りで失ってしまったのだろうか?
 そのような、自覚できなかったことへの後悔って、どう扱ったらいいのでしょうか……


 「大長(おおちょう)ミカン」というブランド、もしくはネーム入りの段ボールを目にしたことがあるでしょうか?
 戻ってからスーパーなどで探してみたのですが、見あたりません。主な出荷先は関西方面なのかも知れません。
 温州(うんしゅう)ミカンの仲間の「早生(わせ)温州」という種類をこの地で育て、広島一のブランドミカンにしたと鼻高々でした。
 一人暮らしをしてからウン十年、果物をめっきり食べなくなりましたが、久しぶりに食べたこの地のミカンに、物足りなさを感じたりしました。
 それはおそらく、都市に出回っているミカンが甘すぎるのだと思われます。
 スーパー等では、売れる商品を仕入れたがりますから、消費者の口も売れ筋の味に慣らされてしまうのだと思います。
 それでは生産者も大変だと思いますが「でも、どっちを買いますか?」と言われたら、甘い方を買ってしまう気がします……
 ──近ごろ梅干しも甘さを意識した商品が多く、わたしは顔をすぼめるような酸っぱさ・しょっぱさが好きなので(一日一粒なのだから塩分控えめなんて関係ない)、いまどき探すのに苦労したりします。売れ筋商品とは、安くできるからではなくて、販売業者が「扱いやすい商品」(売れ残りが少ない商品)であるだけなのではないか? と思ったりします。


 御手洗地区を見渡せる展望台がミカン山の中にあります。
 鞆の浦(とものうら)や上関(かみのせき:山口県)のような、天然の良港の景色というものは、眺めるだけで和んでしまいます。
 橋の開通をとてもよろこんでいるこの島には「とびしま海道へようこそ」と書かれたのぼりが数多くはためいており、そこには住民の方々の願いが込められています。
 鞆の浦(港を埋め立てるバイパス道路)や上関(原発誘致の計画があるそうです)のような、招きたくない客が訪れないようにと願っております。




 豊島〜上蒲刈島〜下蒲刈島(Map)


 遠方の島が水面から離れているように見えます。浮島現象と言うそうで、蜃気楼の一種なんだそうです。
 目にするときは、けだるい夏の午後という印象があったのですが、この日はこちらの意識も結構ピシッとしていたので撮影できました(夏はボケーッと運転しとんのかい?)。

 これが昨年11月に開通した豊島大橋で、豊島と上蒲刈島を結びます。
 対面通行の2車線で結構スマートな印象を受けるのですが、長さは900m程度あり、本州にある造船所に出入りする船のため、橋桁まで50mの高さを確保する必要があったとのことです。
 確かに必要性があるからその高さが設定されたのは理解できますが、橋の高さってそうやって決められるものなんですね。
 てことは、橋の内海側には今後それ以上大きな船を造る造船所は建てられなくなる、ということになるわけですな。勉強になりました。
 ──ちょっと待った! 横浜ベイブリッジの橋桁の高さがそんな程度だった気がして調べてみると、長さ860m、橋桁の高さ55m。ちなみにレインボーブリッジは長さ800m、橋桁の高さ50mですから、構造は違うにしても大きな部類にはいる橋といえそうです。来島海峡大橋など日本で3本の指にはいるような巨大な橋を目にして、感覚が麻痺していたようです。

 上蒲刈島方面から、高校生とおぼしき3人の野郎どもが橋を渡ってきます。
 勝手な想像ですが「おう、ちょっと橋行こうぜ」と、特に目的は無いながらもとりあえず目新しい橋まで歩きに行こうや、といった風情に感じられ、「何でそんなことしてたのか?」とふり返っても、理由など見つかるはずのないことを

「いや、ちょっと……」

なんてやっていたころを思い出してしまいました。
 青春ってそんなもん?
 ──笑うところじゃないんだけれど、気恥ずかしい照れ笑いというか、ひとりなので自分の若かりしころを思いだし、涙しながら大笑いしておりました……


 上写真は上蒲刈島と下蒲刈島を結ぶ蒲刈大橋。
 トラス橋という構造で、今回未掲載の大崎下島〜豊島を結ぶ豊浜大橋(とよはまおおはし)や、本州と周防大島(山口県)を結ぶ大島大橋など、瀬戸内には同様の橋が多い印象があります。


 大芝島(Map)


 上写真は、とびしま海道を離れ本州側を走りながら目に入った、カキ養殖用の棚と思われるものです。
 棚にはビッシリとホタテ貝の殻が吊されていますが、干潮時には完全に干上がる場所なので、放棄されたもののようにも見えますが、他にも同様の棚を多く見かけます。
 調べてみると、栄養が豊富そうな場所にホタテの貝殻を吊しておくだけで、幼生が付着して育っていくそうなので、これがカキ養殖の本来の姿なのかも知れません(違っていたらご指摘願います)。


 ちょうどいい具合に時間が空いたので、立ち寄ることができた大芝島です。
 橋が架かっていると、このようにちょっとした時間でも紹介出来たりしますから、島にとってはとても大きな存在です。
 このレポートが貢献できるかは、別問題ですが……


 橋の開通は喜ばしいのでしょうが小さな島ですし、大崎下島の御手洗のように「無理やり農道」しかないので、あまり生活の邪魔をしない方がいいかな、とも思ってしまいます。
 しかし、だからこそフォトジェニックな景色が多くあったりするので、いつも悩んでしまうのですが、ここは行って良かったと思います。
 小さな港や、木造二階建ての小学校などを目にすると、お尻に根が生えてしまうのですが、寒さがそれを許してくれませんでした。


 上写真は小芝島で、流れの速い海域の中で砂嘴(さし:砂などが堆積した浜)を伸ばしている様子が、何ともいじらしく見えます。
 付近の海域は、スナメリ鯨(背びれのないイルカ:分類上イルカとクジラに区別はないそう)の生息地なんだそうで、機会があればそんなテーマでゆっくりと来てみたいと思っています。

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