2009/01/12

取り残された──大崎上島

2008.12.25
【広島県】

 契島(ちぎりしま)(Map)


 目的地である大崎上島には橋が架けられておらず、船で渡る必要があるので、竹原からフェリーに運んでもらいます。
 そんな道すがら「これは、瀬戸内の軍艦島だ!」という上写真の島影を目にしました。
 わたしが比較の対象としたのは、九州の長崎市街の沖合19kmにある、かつて炭鉱の島として栄えた「端島(はしま)」です。
 「軍艦島」で検索すると両方とも候補として表示されます。
 島全体が人工的なフォルムを呈して、さながら軍艦のように見えることから付けられた通称になります。
 この契島は、東邦亜鉛株式会社の所有で全島が亜鉛の製錬所となっていて、日本の大部分の鉛がここで製錬されているんだそうです。
 ちなみに日本の亜鉛の産地としては、功罪の両面で知られる岐阜県の神岡鉱山(ここは三井)があり、富山の「イタイイタイ病」(カドミウム汚染)の元凶となりましたが、閉山後の坑内には、小柴昌俊さんのノーベル賞受賞に貢献したスーパーカミオカンデ(ニュートリノ検出装置)が作られています。
 「それは言いがかりだ!」などと怒られそうですが、先日ふれた四阪島(銅の製錬所)も含めて、海上交通網が昔から発達していた瀬戸内海では、原材料の搬入から加工までを離れ小島で完結してしまえば、少々の問題は発覚せずに済ませられるというような、実にヤバイ海であったようにも思われます。
 今どきは、有名なカキから、鯛・ヒラメ・ふぐ・ホタテまで、幅広く「育てる漁業」が盛んになっていますから、工場側も神経をとがらせていることでしょう。
 何度も言いますが、ここは日本で最初の国立公園なんですから、と胸を張れる海であって欲しいと思うのです。


 大崎上島(おおさきかみじま)(Map)


 しまなみ海道が通る大三島の西隣で、目と鼻の先にある大崎上島ですが、大きな島にもかかわらずこの周辺では、唯一陸路が整備されていない島になります。
 ここ広島県内の大きな島で橋の架かっていないのは、ここと厳島神社のある厳島(宮島)だけと思われます(大小で区別するな、と怒られるかも知れません)。
 厳島(宮島)に橋は架けない方がいいと思ってしまうので、ここだけが取り残された印象を持ってしまいます。
 架橋の計画はあるそうで、後述しますが呉方面から島づたいに隣の岡村島までは開通していて、この島をつないだ後には大三島からしまなみ海道に接続するというもので、かなり壮大な計画になります。可・不可も含め、いつ頃実現するのでしょう?
 確かに人口の多くない島に橋を架けることの費用対効果としては、島民だけを優遇しているように映るかも知れませんが、国や自治体が、その島を国土として有効活用したいと考えているならば、将来への投資として予算を組むべきではないか、と思われます。
 その基準ラインの引き方は難しいと思うのですが、島民が新たな社会活動を計画したときに「橋のおかげで可能になりました」という希望と「橋があれば可能だったのに」という絶望では、その島の価値に天と地ほどの差が出てしまう、と思われるからです。
 それで過疎化が防げるとは思っていませんが、まずは可能性をつなぐことから始めるべき地域ではないかと思われます。
 何度となくやり玉に挙げられる道路行政についても、いまある道を広げることも必要ですが、道なき場所に道を造ることも重要ではないかと思われます。
 ──たまにしか行かない部外者の意見としては「フェリーの方が風情がある」なんですが……


 瀬戸内の島には、穏やかな海という地の利を生かした造船所が無数に点在しています。
 ──生活の手段として船を利用していたので、船大工が多くいたことは理解できるのですが、むかし海軍の軍艦を作ることから始まったのでは? なんて言いたくもなってしまいます。

 そんな島々に平坦な土地はありませんから、上写真のように道路や家並みにはみ出しているのでは、と思えるような場所で船が造られています(左下は一般道)。
 ミカンを栽培しているだけでは若者は根付かないでしょうから、工場(造船、製錬所)等の誘致(結構大きな発電所もあります)という選択は、地域社会の経済と存続に大きな役割を果たしていることなのでしょう。
 本来ならば兵庫県の家島諸島のように、漁業で活気を保って欲しいと言いたいのですが、大都市圏が近くにない地理的条件や、漁業資源の問題もあるでしょうから、新しいことを考える必要があるのだと思われます。


 そんな、船でしか行けない、特に観光名所もない地味な島にもかかわらず、「もう一度行きたいなぁ」と思い続けてきた場所があります。
 上写真の絶景露天風呂「きのえ温泉」(ホテル清風館)です。
 人の気配を全然感じない、大海原に面した露天風呂もいいですが、瀬戸内の島々の奧にしまなみ海道の橋が見えていたりするのも一興と思います。
 また、この日は少なめでしたが(景気の影響か?)目の前を船が適度に行き来するので、飽きることなく海を眺めて湯につかっていられます。前回は1.5時間、今回も2時間弱入っていました。
 「そんなに入ってられない」と思うかも知れませんが、いまの時期この露天風呂は吹きさらしで風が強いのでめちゃめちゃ寒く、火照ってきたら半身浴で体をさましたりしているうちに、時間はあっという間に過ぎてしまいます。
 途中から入ってきたおじさんが(滋賀県の方)「瀬戸の島にもこんな素晴らしい温泉があるとは驚いた」と、よろこんでおられました。
 アクセスはちと面倒ですが、従業員の方から「今日は開店休業状態です」の言葉が出てくるこの時期でしたら、この眺望を独り占めできますよ! 是非いかがでしょうか。

 わたしもそんな宣伝をするようですから、大きくは儲からないのかも知れませんが、わざわざでも「行きたい」と思わせてくれるような売りというものを、地方の町では考える必要があるのだと思います。
 そりゃあ「また行きたい」と思えば、ノコノコと来てしまいますからね……


 風呂場でセルフタイマーをセットしている姿を想像すると、笑える格好だったことでしょう(バカだよね……)。
 何たって独り占めだもの、バカなことやったっていいじゃないですか!

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